外国とのアマチュア無線資格の相互認証(いわゆる相互運用協定=レシプロ)の締結先が久しぶりに増えた。9月29日にニュージーランド(ZL)、10月21日にはインドネシア(YB)との相互認証が施行された。そこで、アマチュア無線のコールサインや法制度研究の第一人者、JJ1WTL 本林良太氏の特別寄稿により、レシプロ制度に分析するとともに、これまでの外国人の日本での運用手段を振り返る。今回はその第7回目だ。
レシプロを持たない外国人でも運用できる場合が、マレにある。 それは大きなイベントでの記念局だ。今回はその事例を紹介していこう。
●外国人ハムが運用できた記念局
最初に「外国人ハムが運用できた記念局」を総括してしまうと、これまでに8例が存在した。
年 | コールサイン | 対象イベント | 法的根拠 | |
---|---|---|---|---|
1 | 1971 | 8J1WJ | 第13回ワールドジャンボリー | S46告示569 |
2 | 1978 | 8J3ITU | 第14回CCIR総会 | S53告示377 |
3 | 1983 | 8N1WCY | 世界アマチュア無線国際会議 | S58告示691 |
4 | 1985 | 8J1XPO | つくば科学万博 | S60告示175 |
5 | 1994 | 8N1APT | APT(アジア・太平洋電気通信共同体)アマチュア無線セミナー | H6告示338 |
6 | 1994 | 8N3ITU | ITU京都全権委員会議 | H6告示473 |
7 | 1998 | 8N0WOG | 長野冬季オリンピック | H9告示650 |
8 | 2005 | 8J2AI | 愛・地球博 | H17告示277 |
●外国人ハムが運用できた記念局の「法的根拠」
法的な根拠は、まずは『電波法』にある以下の条文だ。
(アマチュア無線局の無線設備の操作)
第三十九条の十三 アマチュア無線局の無線設備の操作は、次条の定めるところにより、無線従事者でなければ行つてはならない。ただし、外国において同条第一項第五号に掲げる資格に相当する資格として総務省令で定めるものを有する者が総務省令で定めるところによりアマチュア無線局の無線設備の操作を行うとき、その他総務省令で定める場合は、この限りでない。
--このように、「省令で決められている場合のときは、従免がなくてもいいからね」という、“ワイルドカード”がじつは設けられている。 ではさっそく、その“省令”を見てみよう。『施行規則』だ。
(アマチュア局の無線設備の操作の特例)
第三十四条の十 法第三十九条の十三ただし書の総務省令で定める場合は、臨時に開設するアマチュア局の無線設備の操作をその操作ができる資格を有する無線従事者の指揮の下に行う場合であつて、総務大臣が別に告示する条件に適合するときとする。
結論として、「告示の条件に合うときは、従免がなくてもいいからね」という抜け道が整えられている。 あとは、神の降臨を仰ぐためには、「告示」さえ出してもらえればいいのだ(それが大変なのだが)。
この規定の原形が整えられたのは1958(S33)年で、電話級・電信級の両アマチュア無線技士の資格が創設されたときと同時だった〔S33省令26〕。 その後、条番号などは変更されたが、いまでは上述の「施行規則34条の10」が、
・記念局での、レシプロ対象外の外国人ハムによる操作
・ARISSスクールコンタクトでの、従事者免許を持たない小中学生による操作
に共通の拠り所となっている。 この制度が整備された1958年を起点として数えると、「55年間で8例」しかない(ARISSスクールコンタクトを除く)。 なかなか得られないレアなケースといえよう。 今後当面の候補となると…
・2015年のボーイスカウトワールドジャンボリー(8J4J)
・2020年の東京オリンピック
の可能性が高い。
ところで、「ARISSスクールコンタクトと同様なシカケで小中学生に昭和基地の8J1RLと交信させてあげられないか?」という要望が挙がっているが、本土側が“臨時に開設するアマチュア局”でないと現行ルール上は認められないことも先読みできるだろう。つまり、恒久的な局であるJA1RLに集めて、あとはなんとか告示さえ出してもらえれば…というわけには、いかないのである。
●告示の原文
最後に、“神対応”の告示の原文をお見せしよう。 ご興味のある方は以下をご堪能いただきたい。なお、ARISSスクールコンタクトの臨時局については、これらの“時限立法”的な告示とは異なり、以下の告示が恒久的に生きている。
電波法施行規則第三十四条の十の規定に基づく臨時に開設するアマチュア局の無線設備の操作を行う場合の条件
平成14年3月22日 総務省告示第154号
http://www.tele.soumu.go.jp/horei/reiki_honbun/a72aa33001.html
★8J1WJ 第13回ワールドジャンボリー
これが「本土初の8J局」。また「JARLの局ではない」点、「本来なら2エリア」の点についても、ご注目いただきたい。 エリア番号の違反は、この8J1WJのほか、8J90XPO・8J2000・8N2000・8M2000の計5例しかない。
★8J3ITU 第14回CCIR総会
コールサインを一見すると「ITUデー(世界電気通信記念日)」の記念局だが、そうではなく、「CCIR総会」が対象。
★8N1WCY 世界アマチュア無線国際会議
初の8N局。8Nには、当初、「外国人が運用できる」ことを示す意図があったことが伺える。 サフィックスはこの年1983年の”World Communications Year”から。
★8J1XPO つくば科学万博
このときは8Nではなく8Jを使用する一貫性のなさ。
★8N1APT APT(アジア・太平洋電気通信共同体)アマチュア無線セミナー
根拠となっている『施行規則』の条文がこのとき変更に。
★8N3ITU ITU京都全権委員会議
これも一見「ITUデー」だが、そうではなく、ITUの京都全権委員会議が対象。
★8N0WOG 長野冬季オリンピック
札幌(1972年、初適用の8J1WJの翌年)のときの記念局「JA8IOC」では発動されなかった。
★8J2AI 愛・地球博
いまのところの最後の適用例。「一アマ・二アマの指揮の下」の制限が撤廃された。
この連載も次回がいよいよ最終回。「社団局での特権」と「外国人ハムが日本で運用する方法」の総まとめをお届けする。
寄稿:JJ1WTL 本林良太
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