「電力合成」をご存じだろうか。2つの直線増幅器をパラレル(並列)に接続することで、より大きなパワー(出力)を得る方法だ。放送局の送信システムでも用いられることが多く、1台が故障しても、もう1台で送信でき、停波を避けられるメリットもある。木村 滋氏(JA4MSM)は、500W出力と700W出力の真空管リニアアンプ2台を用意。実験を重ね、自作の分配器と電力合成器で1kW出力を得る回路構成で、1kWのアマチュア局免許を得て無線を楽しんでいる。同氏によると、この回路構成は中国総合通信局で管内初(免許を受けた2016年時点)となるもので「実際に免許を得て運用しているのは日本で初めてかもしれないと思う」と語っている。
木村氏(JA4MSM)によると、「お金を出せばいくらでも良いリニアアンプが手に入る時代、古い手持ちのリニアアンプを有効に利用できないか検討してみた」「1kWの電力を出す事が目的ではなく、電力合成への好奇心と技術的な興味、もったいない精神で行うもの」として、“電力合成”に着目したという。
まったく同じ出力(型番など)のリニアアンプ2台を用意する必要もなく、自作した分配器と電力合成器を接続するだけで出力が増幅されるということだ。
「私は500Wクラスの真空管リニアを複数台所有し、バンド毎に使い分けていた」「古い真空管リニアでもバンド毎に配置すれば、QSYの時に面倒な調整がいらない」「しかしリニアがたくさんあっても電波を出すのは1台だけ。他のリニアは遊んでいるのでもったいない!?」「2台動作させ1kWの能力で500Wを出せば電波の質も良くなるはず」としている。
電力合成による1kW出力の免許取得に至るまでの経緯を木村氏が語ってくれた。
電力合成の申請をするため中国総合通信局に相談したところ、いろいろ質問されたのでデータや写真を提出しました。
しかし、「電力合成と言う形では例がなく2台のリニアアンプを1つの筐体に入っている形で申請してもらえないだろうか? つまりリニアアンプは2台を1台として扱いたい」と打診がありました。
中国総通からの提案を検討しましたが、以下の問題があり“電力合成”として申請したいことを伝えました。
①FL2000BとFL2500は真空管も真空管の数もプレート電圧もまったく違うので工事設計書が1台として書けない。
②FL2000BとFL2500を単独で使用する場合もある。
それに対して、「今後のこともあるので電力合成をどのように扱うか、対応を各総合通信局と調整して統一するので申請はせずにしばらく待ってほしい」と連絡がありました。
数週間後、「各総合通信局間で調整がついたので、電力合成で申請してください」と連絡があり、無事に電力合成による回路構成でアマチュア局1kW出力の免許が下りました。
●これまで実際に電力合成の運用を行ったリニアアンプの組み合わせ
作成した電力合成器。使用したコアはFT240-43×2。コアは1個でも1kWで大丈夫だったが、念のため2個スタックした
作成した分配器。分配器は電力合成器と同じでINとOUTを逆に使うだけ
実際の運用では、バンドごとのリニア調整は非常にクリティカルなため、3.5MHz帯と7MHz帯で別々の電力合成リニアを用意。「今回試した方式は原理的に、異なる出力のアンプでも電力合成が可能なので、八重洲無線のFL2000B(500W出力)とFL2500(700W出力)で電力合成を試みた」として、1.2kW出力を得ているケースもある。
●電力合成免許にあたり中国総合通信局から届いた文書
最後に木村氏は「リニアアンプの電力合成に技術的興味がある方には面白いテーマだと思う」と語っている。興味のある方は、下記の関連リンクから木村氏(JA4MSM)のブログを確認してはいかがだろうか。
●関連リンク:
・真空管リニアアンプの電力合成をやってみた(JA4MSM 米子)
・電力合成の調整方法(JA4MSM 米子)
・電力合成免許にあたり総合通信局から頂いた文書(PDF形式)
・JA4MSM 米子
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