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【特別寄稿】日本に居ながらにして外国のコールサインを取得! Part2「一度に7種類&原則終身免許、こちらはイギリス『M0WRJ』です」編

日本のアマチュア無線技士の資格を持つハムが、海外から運用する方法はいろいろある。相互運用協定を結んでいる国々なら容易でも、それ以外の国や地域からのオンエアーとなるとハードルが高くなるだろう。アメリカのエクストラ級の資格を持ち、世界6大陸、30か国(地域)からのオンエアー実績があるという鈴木康之 静岡大学大学院工学専攻教授(JR2BEF/JA9OMT)に、日本に居ながらにして外国のコールサインを取得できた!という方法を寄稿してもらった。全部で5か国(地域)を順次紹介。前回に続きPart2は「こちらはイギリス『M0WRJ』です」編だ。

 

 

M0WRJのQSLカード。英国旗とEU旗がたなびいているイメージ。イギリスでは「全国のRSL(地域二次ロケータ―、いわゆるコールエリアのようなもの)」を一括で発給されるため、「M0WRJ」「MU0WRJ」「MD0WRJ」「MJ0WRJ」「MI0WRJ」「MM0WRJ」「WM0WRJ」の7種類のコールサインが指定されることになる

 

 

 

 Part1「4アマでもOK、こちらはアイルランド『EI2KT』です」編(2019年4月11日記事)で説明したとおり、私は2000年以前にイギリス(グレートブリテン、および北アイルランド連合王国)の資格で「M1DVF」を開局していました。

 

 

現地で試験を受けたはずなのに…

 

 この資格は、モールス試験のない、いわゆる当時のB級ライセンスで、フルライセンスを取得するためにはモールスの技能認定を受けなければなりません(現在はモールスなしでも良いようです)。

 

 そのため、2000年に欧州旅行をした際、ロンドン郊外でRSGB(イギリスのアマチュア無線連盟)主催のモールス技能(12WPM)試験を受けて合格しました。この合格証を添えて変更申請を出せば、理屈のうえではイギリスの最上級のコールサインが得られるはずです。

 

 ところがです。今回復活と昇級の申請をしようとしたとき、合格証以外の当時のエビデンスがまったく手元に残っていなかったのです。すなわち、「M1DVF」コールサインが発給されていたことを証明する方法が、この時点では見つかっておらず、さらに「M1DVF」の免許の有効期限は切れているものと思い(当時は有効期限が5年間と記憶)、「イギリスのコールサインは幻に終わる」「アイルランドと同じような方法で日本の1アマの証明書で最初からやり直す」「アイルランドのコールサインを元に『M/EI2KT』のような形式での当座出張期間の運用やむなし!」と考えていました。

 

 アイルランドでは、このRSGBの書類が残っていたのが幸いして、「EI2KT」のコールサインを取得する際に、この証明書を添付したらOKでした。

 

 

モールス技能証明について

 

 現在、日本のアマチュア無線技士の試験でモールスの実技試験はありません。CEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)諸国のなかにも、モールス技能がなくても最上級のクラスの資格が得られる国がありますが、また、モールス技能が証明されれば短いコールサインが発給されるなど差別化しているケースも見られます。

 

 アイルランドや、後述(Part3編)するエストニアがこれに該当。これらの国に対して申請するときに頭を悩ますのが、このモールス技能証明です。私の場合は、RSGBの合格証がありましたから問題なかったものの、今後同じようなことをする場合には以下のような方法があります。

 

①RSGBやIRTS(アイルランドのアマチュア無線連盟)など現地各国で行われているモールス技能の認定試験を受ける。とくにRSGBはモールス試験をオンデマンドで、かつ試験官によってはスカイプ越しの受験を認めているので、先方試験官と意思疎通がきちんとできれば日本に居ながら試験を受けることは理論上可能です、この原稿を書いている時点で、関東地方のある方がネゴシエーションの末、近く「日本に居ながら」受検する手はずになっています。

 

②JARLの行っている「モールス段位認定試験」を受験して、合格したことの英文証明を得る(JARL国際課と調整が必要)。

 

③最近あるOMが試した例として(この方はモールス実技のある時代に第一級アマチュア無線技士の資格を取得)、 HAREC(CEPT主管庁による「統一アマチュア無線試験証明書」)様式の証明書に「この方はモールスの技能を併せ持っている」旨を特別に加筆してもらう。

 

 

2000年に受験し合格したRSGB(イギリスのアマチュア無線連盟)のモールス試験結果

 

 

 

イギリスの申請はOfcomのサイトから

 

 アイルランド免許を申請した際には気づかなかったのですが、イギリスでの申請をどうしようかさんざん悩んでいたときに、ふとモールスの証明書を眺めていると、右下写真の横に「M1DVF」という当時発給されたコールサインが記載されていることに目が止まりました。

 

 お、これはこのコールサインは私に発給されたものだと証明する、重大なエビデンスになるな!と確信。「M1DVF」の復活とモールス証明によるアップグレードに正式に挑戦することにしました。

 

 そうなると話は簡単です。RSGBの事務所に連絡して免許を所掌する部署を教えてもらい、Ofcom(Office of Communications:イギリス情報通信庁)のWebサイトから手続きに入りました。イギリスで2003年以降試験を受けた人は申請料は無料、Webサイトだけでは完結できない過去免許の復活やHAREC証明書など他国の書類を利用した手続きは有料…と、アナウンスされていました。

 

 

「Ofcom(Office of Communications:イギリス情報通信庁)」のオンラインサービスポータルサイト。アカウントを最初に作る際には、「Are you a new user?」のところにある「Register as a new user」をクリック!

 

 

 

 この申請でも、ビザ(査証)や市民番号のような長期滞在を説明する書類は一切不要です。

 

 

 アカウントを作成して必要な情報を投入して、という作業そのものはアイルランドで経験しています。日本のそれとはまったく異なるのは、IDを作る際に住所確認など必要がないこと。アイルランドと同様です。

 

 具体的な作業として、私は前述のモールス合格証と紙版申請書(書式名「OfW346」)などを準備しました。HAREC様式の1アマ証明などをベースに申請する場合も、段どり自体は同じです。

 

 しかし、途中でにっちもさっちもいかなくなりました。それは「RSGBの志願者番号」を投入する欄があり、私を含めてほとんどの日本の方はこの番号を持っていないはずなので、先に進めなくなり万事休す?

 

 

英国紳士淑女のメール対応

 

 そこでヘルプを参照しながら、メールベースで先方担当者とやり取りをすることに。前述のように、「無料で申請できる人」はこのプロセスを通りませんので、この作業は、申請が有料か無料かを切り分けるポイントになるのかもしれません。

 

 アイルランドでは、先方の始業前(日本時間の午後)にメールしておくとどんなに遅くもその終業後(日本時間の翌早朝)には返事がきていてとてもレスポンスの良いやり取りができました。

 

 一方、イギリスの場合はそうはいきませんでした。Ofcomのページに「問い合わせ回答には2週間程度、猶予をください」と案内があるように、ある意味“確信犯”ですが、それも先方の文化と思い、首を長くして返信を待つこと数日間が経ち、「対応した」といった簡単なメールが届きました。

 

 なにか進展があったかなと上記ポータルを見に行くと、RSGB番号が割り当てられており、申請サイトの奥まで進めるようになっていました。申請書とモールスの証明書(今後、日本からCEPTで申請する場合は「申請書」と「HAREC様式証明書」です。パスポートコピーは不要)をPDFデータで送信しました。

 

 そのあとまた音沙汰なし。メールしても「やっといたよ」ぐらいな返事しかこないのならメールに頼らず、合間を見てはポータルサイトの変化を見に行っていたところ数日後に何か表示が変わっていることに気づきました。

 

「申請料払え」の案内が現れました。ここまでくれば申請は終わったようなもの、リンクをクリックして、20ポンド(約3,000円)の請求書をダウンロード。クレジットカード決済を選べるので支払完了です。

 

 

Ofcomサイトに現れた「請求書」画面。1か月以内の支払い猶予があるが、すぐ送金した。すでに「Licensee(免許人)」という記述があるので気持ちが良い

 

 

 

 するとその先は速かったです。あっという間にサイト上に「免許ダウンロード」のリンクが現れました。恐る恐るダウンロードすると、なんとまあ、イギリスのコールサインでオンエアーできる免許が取得できました。アイルランドと同様、郵便でのやり取りは一切ありません。

 

 

イギリスの免許状はA4判3枚組。CEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)勧告に完全準拠して3か国語で記述されている

 

 

イギリスのコールサインの特徴

 

 

①好きなサフィックスを指定できる

 

 紙版で申請した私の場合は、アメリカのコールサイン「WR1J」を由来とした「M0WRJ」、日本の信越総合通信局管内で発給されたコールサインを由来にした「M0RHL」、そして指定できるかどうかわかりませんでしたが、昔のコール「M1DVF」の3種類を希望しました。

 

 結果、第1希望の「M0WRJ」が発給されました。3種類とも希望のものが先に使われている場合は、シーケンシャル(AAAからの順番)に割り当てられます。紙版を使わずにウエブ完結で申請する場合はその過程で希望コールが空いているかどうか調べられます。

 

 

②一度に7種類のコールサインが取得できる

 

 イギリスの免許制度が凄いのは、1つの資格でコールサインが7種類指定されるところです。日本で言うなら、関東総合通信局管内で常設置場所を申請すれば、1エリアコールサインだけが指定されます。しかし、イギリスでは「全国のRSL(地域二次ロケータ―、いわゆるコールエリアのようなもの)」を一括で発給します。私の「M0WRJ」の免許1枚目のコールサインのところを見てもらうとわかりますが、実際に免許上で指定されているコールサインは「M#0WRJ」となっています。

 

 このからくりを簡単に説明しましょう。イギリスは地政学的に、England、Guernsey、Isle of Man、Jersey、Northern Ireland、Scotland、Walesに分けることができます。これをコールサイン上では「RSL」として表現します。

 

 指定されたコールサインの「#」の部分には、順に「(なし)」「U」「D」「J」「I」「M」「W」の文字が入ります。すなわち、この免許状では「M0WRJ」「MU0WRJ」「MD0WRJ」「MJ0WRJ」「MI0WRJ」「MM0WRJ」「WM0WRJ」の7種類のコールサインが指定されたということになります。

 

 

イギリスのコールサインでプリフィックス2英文字目(RSL)を示す地図(ウィキペディアから)

 

 

③イギリス資格をベースにさらに第三国から運用可能

 

 

 本稿は「免許が取れた」ことに主眼を置いて記述しています。そのあとの運用や第三国利用は、シリーズ最後の「Part5」で詳しく整理しますが、ここで運用上の魅力や注意点についても少し触れておきましょう。

 

 私のように現地試験を実際に受けて合格したり、今後新たにHARECを用いてイギリスでフルクラスのライセンスを取得した場合、CEPTに参加する他国でポータブル形式(T/R 61-01に規定のID送信方法)での運用が可能です。ただし、英国のフルクラスをモールス証明なしで取得している場合で、モールスの技能の証明を求めているCEPT国に渡航して運用する際は、「短波帯は出られない」などの制限があるので要注意です。

 

 2018年11月の改正以前にHARECでイギリスのコールサインを得た場合に、資格欄に「Reciprocal」のような表示があるケースがあります。これは「フルクラス」ではなく、「フルクラス(レシプロカル)」ということで、さらなる第三国からの利用ができないので注意が必要です。

 

 免許状がCEPT規定の3か国語表記で、これ自体がHAREC証明書にもなっていることも「世界最強」と言える理由の1つです。そうは言っても、何をやっても良いわけではないので、CEPTのルールをよく読んで無理のない範囲で楽しまないといけません。

 

 ただし、日本の資格でHARECを元に得たイギリスをはじめとするCEPT免許状で、少なくとも日本でいま持っているコールサインとは別に、日本のコールサインが発給され開局できるのか、といえば未確認です。

 

 私のように「見るからに日本の免許をすでに持っていそうな苗字」の場合は、確実に疑われてアウトになるような気がします(トライしていません)。そもそも、HAREC書式の証明書作成を総合通信局に請求する場合、どの国で使用するかを書く必要があるからです。

 

 

④終身コールサイン、以降は無料!

 

 なによりも、免許状に満了期日が書いてない点が素晴らしいのです。今後、5年ごとに確認することを条件に、終身で発給されたコールサインを使い続けられます。住所変更とかをしても無料なので、維持費の面からもお得ですね。もちろん違反などをすれば最悪取り消されることもありますから要注意です。

 

 

 次回のPart3はバルト三国の1つ、“日本に居ながらにして外国のコールサインを取得”エストニア編を紹介します。

 

 

 

 

●鈴木康之氏(JR2BEF/JA9OMT)プロフィール

 

1973年 JA9OMTおよびJR2BEF開局
1988年 アメリカでノビス級「KC6BKZ」開局。そのあと「KH2EC」「AH2CH」
1991年 アメリカでエクストラ級を取得「WR1J」
1991年 浜松ノビスクラブ「7J2YAA」を主宰
1993年 ブラジルで「PS7ZWR」開局
1995年 オーストラリアで「VK2WJR」開局
1998年 イギリスで「M1DVF」開局
1999年 エジプトで「SU0ERA/WR1J」開局、自前のWAC完成!
2005年 浜松ノビスクラブのアメリカ版FB.net「KA1AA」を立ち上げ
2018年 浜松ノビスクラブ再始動。「EI2KT」「M0WRJ」「ES1ZB」を開局
2019年 キプロスで「5B4AOH」を開局

 

 

 

↓この記事もチェック!

 

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【特別寄稿】日本に居ながらにして外国のコールサインを取得! Part4「ノービザ、ノーCW、電子メール一発申請、こちらはキプロス『5B4AOH』です」編

 

 

 

●関連リンク:
・海外でアマチュア無線を楽しもう!!(JARL Web)
・アマチュア無線の国際運用(ウィキペディア)
・勧告 T/R 61-02 統一アマチュア無線試験証明書(CIC:JJ1WTL 本林氏のブログ)
・鈴木康之-研究者(researchmap)
・鈴木研究室(静岡大学)

 

 

 

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