アメリカは新型コロナウイルスの感染者が14万人を超えるなど深刻な状態だ。トランプ大統領は3月13日に国家非常事態を宣言。一部の州や地域では外出禁止令が出るなど市民生活に多大な影響が出ている。またアマチュア無線関係ではARRL本部の閉鎖(2020年3月25日記事)や、5月のハムベンションの中止(2020年3月16日記事)なども伝えられているが、一般のアマチュア無線家のハムライフにはどのような影響が出ているだろうか。米国ニューヨーク州在住のJR1AQN 前田正明さんからのリポートを紹介する。
「今の米国のアマチュア無線家はめげずにこんな風に活動している」
JR1AQN 前田正明(米国 Briarcliff Manor,NY在住)
ハムベンションの中止、ARRL本部の閉鎖という情報は既に日本でも認知されています。それ以外でもアマチュア無線ライフに、いろいろな支障や変化が起きているのではと思います。無線ショップやクラブのミーティングなどの状況やボランティアグループの活動、バンド内の状況など、「今の米国のアマチュア無線家はめげずにこんな風に活動している」というリポートをお届けします。
(1)ARRLのEast New York SectionのマネージャーであるJohn(K2QY)からは、グループメールで「各カウンティー(郡)の非常災害グループは、災害マニュアルをレビューしておき、必要に応じてトレーニングを開始すること」という連絡が全ARRLの会員向けに発信されました。
(2)次に私が所属しているクラブ(Peekskill/Cortlandt Amateur Radio Association、PCARA)で中心的な役割を果たしているKD2ITZ Lou Cassettaさんに聞いてみました。
--多くのハムクラブ活動に対するコロナウイルスの影響はどうでしょうか? 計画していたミーティングやセミナーはどのような感じでしょうか?
「一部のクラブは、SkypeやZoomなどのインターネットアプリを使用してバーチャル会議を始めています。家に居る人が会社の会議や学校のオンライン授業のためにこれらを使用しているため、TV会議用のプラットフォームについての理解がかなり深まっています。もちろん多くのクラブは無線による交信も利用していて、リピーターとシンプレックス周波数でスケジュールされたネットが増加しています」
我がクラブは現在、毎晩7時30分に2mレピータでネットを開催しています。これほど多くのハムが参加しているのは今まで経験がありません。ただ、残念ながらこの環境でVEテスト(注:ボランティアが行うアマチュア無線の資格試験)を提供することは非常に困難です。この事態が長引くと、従来の対面試験の代替案が提供されるかもしれません」
--ハム用無線機の販売にコロナウイルスが与える影響は?
「“無線機の売り上げが上がっている”という話を聞きましたが、確認できてはいません。小売店の多くが訪問客に門戸を閉めたことをご存知だと思います。オンラインでの販売が今やメインですから、全体的な無線機の売上が減少するとは思いません」
--アマチュア無線バンドのアクティビティーはいかがですか?
「バンドアクティビティは確実に活発になったのではないかと思います。これはおそらく、PSK Reporterまたはクラブログの統計をチェックすることで確認できるのではないかと思います」
--ハムによる緊急活動への向けてのボランティア活動はどうですか?
「ニューヨーク州の一部では、コミュニケーション活動に関するハムの支援が要望されています。911のような緊急派遣活動ではなく、代わりにコールセンターで一般市民向けの質問に答えるような活動ですね」
(3)次にARRL Hudson Div. DirectorのRia Jairamさん(NY/NJ/CTトライステートエリアのダイレクター)が、「コロナウイルスとそのアメリカのアマチュア無線コミュニティーへの影響」と題した素晴らしいリポートを寄せてくれたので、以下にご紹介します。
コロナウイルスと米国のアマチュア無線コミュニティへの影響
Ria Jairam、N2RJ
私がこのレポートを書いている2020年3月下旬には、米国および他の多くの国が新型コロナウイルスのパンデミックの真っ只中にいます。多くの州や都市では、「社会的距離(Social Distance)」の規則が制定されており、人々は家にとどまり、食事や医療を受けるなどの必要な理由がある場合にのみ家を出ることができます。数人以上の人々が集まるすべての集会は、一部の州では完全に禁止されており、他の州では激しく制限されています。
これは、アマチュア無線、特に私たち自身の集まりに大きな影響を与えていることは間違いありません。一方で無線通信やインターネットでは全く影響はありません。
この事態にたどり着くまでには
ソーシャルメディアや外国のニュースサイトで時々情報に触れる場合を除いて、この大流行に十分に注意を払っている人はほとんどいませんでした。中国とイタリアからのソーシャルメディアの写真は注意を喚起していました。多くのハムが高齢であったため、COVID-19(新型コロナウィルス)が高齢者に深刻な影響を及ぼしていることはシリアスな問題として取り上げられていました。
一方でほとんどのアメリカ人は通常通りに生活をしていました。アマチュア無線のコミュニティでは、オーランドで行われた「Hamcation2020」を含む大小の集まりが2月に開催されました。結果としてこれらは2020年の最大のアマチュア無線のイベントとして記録に残るでしょう。
バイセイリアのイベントがキャンセル-最初の波
事態が深刻になるにつれて、皆だんだん真剣になってきました。キャンセルになった最初の大きな大会はバイセイリア(カリフォルニア州)での「インターナショナルDXイベント」でした。
主催者はイベントのキャンセルを決定し、3月10日にWebサイトで発表しました。その後、アマチュア無線のコミュニティでは、2020年にアマチュア無線のイベントにおいてコロナウイルスがどれほど深刻で損害を与える可能性があるかを完全に認識しました。
ARRLにより、大小さまざまなハムフェストがキャンセルされ始めました。メーリングリスト、Webサイト、ソーシャルメディアはすべて、イベントのキャンセルに関するニュースを広めました。HF電離層伝搬に関する研究を行っているナサニエルフリッセル博士(W2NAF)でさえ、毎年恒例のHamSCIワークショップ(科学研究に関心のある専門の科学者とアマチュア無線家の集まり)をキャンセルせざるを得ませんでした。
ARRLは本部へのツアーとゲストの訪問を一時停止
3月13日、ARRL暫定CEOのN1VXY Barry Shelleyは、すべての訪問者に対してARRL HQ(本部:コネチカット州ニューイントン)を閉鎖し、すべてのツアーを一時停止し、ゲストオペレーターに対してW1AWを閉鎖するという困難だが必要な決定を行いました。この決定は、スタッフの安全のために行われたものであり、この段階でARRL HQは通常通り業務を遂行していました。最終的に、コネチカット州知事はすべての必須ではないビジネスを閉鎖するように命じ、ARRL HQは3月23日に閉鎖されました。スタッフは在宅勤務となり、多くのARRLサービスは引き続き電子メールで利用できます。
旅行制限、ハムベンションの開催に衆目が集まる
そして、最大のイベントである2020年5月の「デイトンハムベンション」がどうなるかが最も大きな関心事となりました。バイセイリアのイベントがキャンセルされた後でも、ハムベンション実行委員会は“地元の保健当局からのアドバイスを待つ”というアプローチを取っていました。多くのハムはハムベンションがキャンセルせざるを得ないと考えはじめていましたが、一方でキャンセルはそう簡単ではないと感じるようになっていきました。
3月11日、世界保健機関(WHO)はコロナウイルスをパンデミックと宣言しました。トランプ大統領は、その後、ヨーロッパから米国への旅行の禁止を発表しました。これは、ハムベンションに出席するためにヨーロッパから旅行を計画していた多くの参加者は旅行をキャンセルせざるを得なくなりました。米国政府と州政府は日々、さらなる措置を発表し始めました。 OH2BH Martti Laine氏、および4U1UNの無線クラブのメンバーでさえ、出張計画を変更せざるを得ませんでした。
最終的に、3月12日、オハイオ州知事は100人以上の集会を禁止することを発表しました。 3月15日、ハムベンション実行委員会は、2020年のハムベンションをキャンセルすることが最善の方法であると決定し、彼らのウェブサイトにメモとWB8SCTのジャックガーブス会長からの声明を発表しました。
このニュースでがっかりしたハムは多かったでしょうが、予想外のことではありませんでした。ハムベンションの精神を生かすために、World Wide Radio Operators Foundation(WWROF)は、2020年5月16日に「ハムベンションQSOパーティー」の開催を発表しました。 https://wwrof.org/hamvention-qso-party/
ハムの仲間はつながっている
もちろんキャンセルはアマチュア無線とハムベンションに留まりません。学校での授業を含め、他の多くのことがキャンセルされました。会社は従業員に在宅勤務を義務付け始めました。それが新しい日常となりつつあります。皆、自らの家にいて、外の世界とつながりがないようになっています。肉、米、パン、トイレットペーパーなどの基本的なアイテムのパニック買いで店の棚がすっかり空になりました。一部の人々は失業し、きっとこの制限が解除された後でも家にいることになるでしょう。
大会やクラブの会合はバーチャルに
Frissell博士とHamSCIの他の主催者は、HamSCIワークショップを仮想ワークショップで実施すると発表しました。セミナーはすべて無料でYouTubeで放送されます。Zoom会議により、全国のプレゼンターが発表できるようになりました。
ローカルのハムクラブもビデオ会議に目を向けました。多くの場合、地域のARRLのセクションと部門は、クラブの例会開催用に無料のビデオ会議サービスを提供していますので、多くのクラブは、家を離れることなくいつも通りに会議を続けることができました。
いくつかのハムは現在、インターネットを介してVEを実施することも求めています。これまでのところ、アラスカのアンカレッジVEC(試験チーム)にはリモートテストをできるVECが1人だけいます。現段階ではこれを大きく広げるかは時期も含めて決まっていません。
結論として、その他の影響
このパンデミックの影響は広範囲に及びます。多くの点で、ウイルスの拡散を阻止するために、私たちはお互いに離れることを余儀なくされていますが、今ではアマチュア無線コミュニティの間で新たな一体感ができつつあります。ハムショップは、無線機をオンラインで販売し続け、ハムたちはQSOを続けています。
ウイルスが過ぎ去った後も、この一体感が私たちと共にあることを願っています。 73、88
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