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その3:KDDI八俣送信所の「アンテナ」
約100万平方メートルの敷地には、世界のさまざまな方向に放送を届けるため、カーテンアンテナ15基とログペリアンテナ3基を設置している。
★カーテンアンテナ(遠距離向け)15基
ローバンド用:5.9~12.1MHz 高さ70m×幅100m
ハイバンド用:13.6~21.9MHz 高さ35m×幅100m
利得:16.5dBi以上
発射角:約10度
耐入力:300kW×12基、100kW×3基
特徴:鋭い指向性
製作:TCI社(米国)
★水平ログペリアンテナ(中近距離向け)3基
5.9~21.9MHz 最大高44m×幅40m×全長69m
利得:14.5dBi以上
発射角:約21度
耐入力:100kW
特徴:水平面の放射角度が広く広範囲に電波を発射
製作:TCI社(米国)
このうちカーテンアンテナの一部は反射スクリーンを備え、指向性を180度(または30度)変えられる機能を装備したものもあるという。
アンテナはメインテナンスが重要だ。KDDI八俣送信所では、専門スタッフが高所作業車(車両が届かない場所は、宙乗りのゴンドラを使った人力)でアンテナの状態を点検。常に良好な状態で送信できるように補修を行っている。
ちなみに“送信所の大敵”といえば、すぐ「雷」と「台風」が思い浮かぶが(もちろん避雷対策を行い、風速60m以上に耐える設計が施されている)、それ以外に「虫」や「鳥」も怖い存在だという。送信中のアンテナに虫や鳥がぶつかるとアンテナに異常放電が生じたり、SWR悪化で送信機の故障につながることもあるからだ。
そのためKDDI八俣送信所では、敷地内を芝生化した上で、バッタなどの昆虫が発生しにくいように短く刈り込んでいる。虫が発生しなければ鳥も寄りつかないが、敷地が広大なだけに手入れは大変な作業になる。またアンテナに給電する4線式平衡フィーダー(300Ω)は上部に絶縁ロープを張って、フィーダーに鳥が止まらないようにしているという。
300kWものハイパワーで送信することから、周囲の民家などにインターフェアが発生する可能性はないかを尋ねたところ「元々、民家の少ない場所を選んで送信所を開設したが、それでもインターフェアがないわけではない。個別に障害対策を行っているほか、2011年の地デジ化まではKDDIの負担で周辺地域にテレビの共同受信システム(CATV)を導入していた」という説明だった。
◇
約2時間の見学ツアーだったが、300kW送信機の内部や“声が聞こえる変調トランス”、直径226mmの同軸ケーブル、巨大なアンテナ群など、ここでしか見られないものばかりで貴重な写真を撮影することができた。
インターネット全盛の時代だが、世界にはまだ短波放送でしか情報が伝えられない地域や、国家がインターネット接続を管理しているところがある。世界に日本の正しい姿を伝えるために国際放送は今でも重要な手段だ。短波で「NHKワールド・ラジオ日本(Radio Japan)」の信号を受信した際は、KDDI八俣送信所と、そこで24時間働く職員にも思いを馳せていただきたい。
こちらの記事↓↓も参考に!
<写真で見る>短波放送局ならではのアンテナ群、ラジオNIKKEI「長柄送信所」と「根室送信所」の全貌(2014年1月掲載)
<写真で見る>さようなら!! “昭和の香り”の短波放送局--「ラジオNIKKEI」社屋移転前の内部を激写!!(2013年12月掲載)
【写真で見る“JJY”】<250m高の傘型アンテナで長波40kHzを送信!!>JARL福島県支部、「NICT おおたかどや山標準電波送信所」見学会を開催(2016年6月掲載)
●関連リンク:
・国際放送短波送信所 送信開始80年で式典(NHK NEWS WEB 5月19日付け)
・上記↑↑ NHKニュースの動画 (期間限定公開、画面クリックでスタート)
・広大なカーテンアンテナから世界に安心を 日本唯一の『短波』国際放送送信所(KDDI TIME&SPACE:2017年11月掲載)
・海外で聴くには(NHK WORLD-JAPAN)
・NHK WORLD-JAPAN 送信スケジュール A-21 PDF(NHK)
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