hamlife.jp(ハムライフ・ドット・ジェーピー)

注目キーワード:

hamlife.jp > ニュース > 事件・事故 > <知床の観光船遭難事故>事実解明が待たれる「アマチュア無線で交信」の疑問点

<知床の観光船遭難事故>事実解明が待たれる「アマチュア無線で交信」の疑問点

2022年4月23日、北海道知床沖で有限会社知床遊覧船所属の26人乗り観光船「KAZU I(カズワン)」が消息を絶ち、これまでに11人が死亡、15人が行方不明になる痛ましい事故が発生した。報道によると、同船が緊急事態を伝えてきたのは同業他社のスタッフと行った「アマチュア無線での交信」だったとされている。この点に何か違和感を覚える無線家も多いのではないだろうか。そこでhamlife.jpが独自に確認したことと、4月28日15時の時点で報道されている内容から疑問点を挙げてみたい。【4月29日17時30分 記事内容を一部追加しました】

 

こちらの記事も参考に↓
<ようやく新聞各紙が“不正使用”を報道>遭難事故を起こした知床遊覧船、「連絡手段として日常的にアマチュア無線を用いていたことが判明」と毎日新聞が報じる(2022年5月10日掲載)

 

<知床遊覧船のアマチュア無線機不正使用>北海道総合通信局の現地調査で判明したこと(2022年5月13日掲載)

 

 

有限会社知床遊覧船所属の観光船「KAZU I」(同社ホームページより)

YouTube「STV NEWS北海道」公式チャンネルより

 

 

 まず各社の報道から事故発生時の経緯をまとめる。

 

 4月23日午前10時頃、有限会社知床遊覧船所属の「KAZU I」(19トン、定員65人)が24名の乗客と2名の乗組員を乗せ、ウトロ漁港から知床岬付近まで往復3時間の遊覧航海に出発した。同船が浸水しているという118番通報が海上保安庁に入電したのは13時18分。通報したのは知床遊覧船の数軒隣に事務所を構える、同業他社の観光船業者のスタッフと伝えられている。

 

 このスタッフは13時頃、有限会社知床遊覧船の事務所に立ち寄った際「13時の帰港予定が遅れている。船長の携帯電話が繋がらない」と知らされ、それはおかしいと自分の事務所に戻ってアマチュア無線で「KAZUⅠ」を呼び出した。すぐ同船と連絡が取れ「現在地は“カシュニの滝”あたりにいる」という落ち着いた声で応答があったが、その後13時13分頃に無線の向こうから「救命胴衣を着させろ」という切迫した声が聞こえ、続いて「浸水してエンジンが停止している。沈むかもしれない」という内容を伝えてきたので、このスタッフが118番に通報し、有限会社知床遊覧船にその交信内容を知らせたという。

 

 その後13時18分には「KAZUⅠ」乗組員自身から海上保安庁へ「船首が浸水している」という118番通報があったが、これを最後に同船からの連絡は途絶えたとされている。

 

★事務所に立っていたGPアンテナ

 

 有限会社知床遊覧船の事務所には無線機があり、建物横にはアンテナが立っていたが、今冬に折れて送受信ができない状態だったという。修理を進言した関係者に対し、同社の社長は「いまは携帯でいいから」として修理を行っていなかったと報道されている。

 

 hamlife.jpがGoogleマップのストリートビューで確認すると、まだ折れていない状態のGPアンテナが建物横に立っているのが確認できた。アマチュア無線でも使われるVHF帯の高利得タイプにも見えるが、型番やその用途はわからない。

 

Googleマップのストリートビューでは、有限会社知床遊覧船の建物に取り付けられているGPアンテナが確認できる。今冬、これが根本から折れて送受信不能になったようだ

 

★「有限会社知床遊覧船」は簡易無線局の免許を受けている

 

 hamlife.jpが総務省の無線局等情報検索で確認したところ、有限会社知床遊覧船は467MHz帯の簡易無線局(467~467.4MHzの65波、空中線電力:5W、電波型式:5K80F1Dと5K80F1E。移動範囲:日本全国及び日本周辺海域)の免許を8局分受けていることがわかった。他には9410MHzの「無線航行移動局」(いわゆる船舶用レーダー)の免許を「KAZUⅠ」を含め2船舶で受けている。その他の免許情報は確認できなかった。

 

総務省の無線局等情報検索では、有限会社知床遊覧船で免許されている簡易無線局が8局確認できた。

無線局等情報検索より。8局ある同社の簡易無線局の免許内容は識別信号(8局連番)を除いていずれも同じ、467MHz帯のデジタル簡易無線だ。あと2か月弱で免許の有効期限を迎える

「KAZUⅠ」搭載のレーダーと思われる免許情報もヒット

 

 

 この免許されている簡易無線機は、遭難した「KAZU I」に搭載していなかったのだろうか。同船にはマリン用でよく見られるグラスファイバーで覆われたロングタイプのアンテナが設置されていたが、これは467MHz帯簡易無線用のものか? 仮に基地局側と船舶側の双方が高利得アンテナを使ったとしても、467MHz帯の5Wデジタル波では40km以上離れた知床岬付近まで連絡を取るのは難しいかもしれない。

 

「KAZUⅠ」に取り付けられているアンテナ

 

★「アマチュア無線使用」の違和感

 

 最も解明が求められているのは、この日に同業他社のスタッフと「KAZUⅠ」の交信に使われたのは“本当にアマチュア無線だったのか?”という点だ。本当だった場合、なぜ仕事の連絡には使えないアマチュア無線を用いたのだろうか。新聞やテレビも深掘りしていないようだが、大きな疑問がある(スタッフと「KAZUⅠ」の船長が日頃から仲の良い“アマチュア無線友達”だったのかもしれないが…)。
 簡易無線の場合、交信できるのは“免許人所属の簡易無線局”に限られ、会社を超えた交信(同業他社の事務所~「KAZUⅠ」間など)は難しい。交信可能エリアも狭いことから、手軽で高性能なアマチュア無線が使われたのだろうか。

 

 ちなみに、この同業他社のスタッフが所属する会社(法人名)を無線局等情報検索で調査したところ、簡易無線局の免許はヒットせず、保有船舶のうち1隻の船舶局免許(27MHz帯A3Eで3波、空中線電力:1W、通信の相手方:免許人又は免許人加入団体所属の海岸局)と船舶用レーダーの免許のみがヒットした。すなわち23日に「KAZUⅠ」との最後の無線交信に使われたのは467MHz帯のデジタル簡易無線ではなかったことになる。

 

「KAZUⅠ」と最後に交信したとされる同業他社の法人名を無線局等情報検索で調べたところ、ヒットしたのは保有船舶1隻の免許情報のみだった。467MHz帯のデジタル簡易無線は免許されていないようだ

 

 

 4月29日夕方、YouTubeの「STV NEWS北海道」公式チャンネルで公開されたニュース「【証言】あの日何があったのか 無線で「KAZUⅠ」と連絡を取った同業者が語る緊迫の事態 北海道・知床沖観光船不明」では、最後に無線連絡をした同業他社のスタッフが電話インタビューに答え『当社のついているアマチュア無線だったら連絡がつくかもしれないので、自社に戻ってアマチュア無線の電源を入れた。電源を入れて2度3度、“KAZUⅠ豊田さん”という形で呼びかけてみた。こちらから呼びかけても返答がないのが数十秒続いて、向こうからの声が聞こえてきた』など、無線交信の模様を詳しく答えているが、双方のアマチュア無線のコールサインには言及していなかった。

 

YouTubeの「STV NEWS北海道」公式チャンネル 画像をクリックすると動画がスタート

 

 

 当然だが、アマチュア無線機を使った交信には「アマチュア無線技士」の国家資格と「アマチュア無線局」の免許(コールサイン)が必要だ。それらを持っていたとしても、アマチュア無線を仕事の連絡用に使うことはできない。違反した場合は電波法により1年以下の懲役または100万円以下の罰金となる。
 今回の場合、有限会社知床遊覧船とその従業員、遭難した「KAZUⅠ」の船長、交信した同業他社のスタッフらがこうした資格や免許を持っていたのかが非常に気になる(無線局等情報検索でもそれらしきアマチュア局、社団局は確認できなかった)。ここは総務省 北海道総合通信局による調査が待たれる重要なポイントだ。

 

総務省も「アマチュア無線は仕事に使えません」「免許を持っていても電波法違反です」と周知に努めているが…

 

 Twitterでは、かつて知床の観光船で学生アルバイトの経験があるという人物が「あそこには大小様々な観光船の会社があって、今回事故を起こしてしまったのは小型船のうちの一社です」「他社の船どうしで無線連絡を取り合い、ヒグマの出没状況や海上の時化具合などを踏まえて運航するのが知床の観光船なので、今回の事故最大の要因は、天気が悪いのにたった一隻で出港してしまったのがいけなかったと思います」と述べている。こうした観光船業者間の運航情報の交換用として、日常的にアマチュア無線が使われていたとすれば大きな問題だろう。

 

★アマチュア無線使用の「違法性」に触れたメディアは?

 

 今回の遭難事故に関連して、さまざまなテレビや新聞が「アマチュア無線で交信」と紹介しているが、アマチュア無線を業務使用すると法律違反になると言及しているのは、hamlife.jpで確認した限り「日刊スポーツ」の下記記事のみだった。

 


 

【知床観光船事故】無線は義務化なし、携帯等は自社判断 通報されたアマチュア無線は認められず

 

“国土交通省海事局安全政策課によると、旅客船舶には無線設備を設置することは義務化されていないが、非常時に通信可能な携帯電話、もしくは衛星電話を用いることは運航会社それぞれの判断にゆだねるとしている。事故当日は、アマチュア無線で状況を知った別会社から118番通報がされたが、総務省の規定では、アマチュア無線は業務に関連する使用を認めていない。”

 

 (日刊スポーツ 4月27日配信より一部抜粋)

 


 

 なお、船舶の遭難など人命に関わる事態に直面した場合は、電波法に基づく「非常通信」「遭難通信」「緊急通信」などとして無線局免許状の範囲(無線局の目的、通信の相手方、通信事項等)を超えた通信が認められている(正規に免許を受けている無線局の場合)。今回「KAZUⅠ」と同業他社のスタッフが行った交信は(アマチュア無線であったとしても)これに該当するという見方もある。

 

 フジテレビ系のニュース番組「Live News イット!」、テレビ朝日系の情報番組「大下容子ワイド!スクランブル」のコメンテーターとして、熱心なアマチュア無線家として知られるジャーナリストの柳澤秀夫氏(JA7JJN)がレギュラー出演している。柳澤氏がこの遭難事故に関連し、アマチュア無線は業務使用が禁止されていることを、わかりやすくコメントしてほしいと願っている。

 

 

 今回の観光船事故について、一刻も早い全員の救助を願うとともに、亡くなられた皆様のご冥福を心よりお祈りいたします。(hamlife.jp)

 

 

 

●関連リンク:
・無線局等情報検索結果「有限会社知床遊覧船」(総務省)
・有限会社知床遊覧船ホームページ
・アマチュア無線は仕事に使えません!(総務省)
・【証言】あの日何があったのか 無線で「KAZUⅠ」と連絡を取った同業者が語る緊迫の事態 北海道・知床沖観光船不明(YouTube STV NEWS北海道)
・【知床観光船事故】無線は義務化なし、携帯等は自社判断 通報されたアマチュア無線は認められず(日刊スポーツ)
・「救命胴衣着させろ」 知床観光船、事故直前の無線通信明らかに(Yahoo!ニュース)
・知床観光船事故「無線使えなくなる」 事故直前にやりとり 社長会見には疑問の声(産経新聞)
・電波法ウンチク 山岳登山による遭難と非常通信(楽しさいっぱい栃尾愛乱度)

 

 

 

●いったん広告です:

レビュー評価高い Amazonベーシック アルカリ乾電池 単3形20個パック
充電式ニッケル水素電池 単3形8個セット (最小容量1900mAh、約1000回使用可能)