2024年5月8日から10日にかけて、太陽表面で最大クラスの「太陽フレア」(爆発現象)が連続で起き、X線などの強い放射線や電気を帯びた粒子が次第に地球に到達し磁場が乱れる「磁気嵐」が発生、5月11日の朝10時(JST)の時点では短波帯の無線通信に大きな影響が生じている。さらに南半球のオーストラリアやニュージーランド、北半球ではヨーロッパ各国やアフリカ西部でもオーロラが観測され、今夜には日本でも北海道などでも観測できる可能性が高くなっている。専門家は「このような状況が夕方まで続くと1958年2月のように東北地方や新潟でもオーロラが見られるかもしれません」と予測する一方、「オーロラが見事と喜んでばかりもいられない “深刻な” レベルになりつつあります」と厳重な警戒を呼び掛けている。
【追記 5月11日21時40分~】夜に入り、日本各地でもオーロラの観測報告が相次いでいる。SNSにアップされている画像情報によると、北海道各地はもちろん、秋田県の男鹿半島、新潟県の佐渡島、能登半島の石川県能登町、兵庫県北部の香美町、栃木県の那須高原、宮城県仙台市、福島・茨城県境、愛知県東栄町などでも観測に成功したようだ。各地の観測報告は下記関連リンク参照。
サイクル25の太陽活動がピークを迎える中、太陽表面では大きな黒点の出現や最大クラス(Xクラス)のフレア発生が相次いでいる。
国立研究開発法人 情報通信研究機構(NICT)は5月10日の21時に公式サイトに出している「大規模太陽フレア発生に関する臨時情報」を更新、5月8日10時41分から5月10日15時54分(JST)の間に、Xクラスの太陽フレアが6回発生したことを伝え(54時間以内にXクラス以上のフレアが6回発生したのは18年8か月ぶり)、「デリンジャー現象の発生による通信障害」「GPSの誤差拡大」「人工衛星の障害」「地磁気の乱れによる誘導電流の発生で送電施設のトラブル」などが想定されるとして警戒を呼び掛けている。

NICT 宇宙天気予報の“現状”欄より。太陽フレアは「非常に活発」、地磁気擾乱は「猛烈に活発」、デリンジャー現象も「発生」している状態だ(5月11日10時29分現在)
短波帯のアマチュアバンドもコンディションは劣悪で、DXクラスターを見ても5月11日の0時(JST)以降のDX入感リポートは世界的に少ない状態だ(相対的にVHF帯のリポートが目立っている)。

DXクラスターにアップされた入感情報も少ない。DXSCAPEのJA発のリポート画面では、10日22時59分(JST)からの12時間で、わずか25件のリポートしか上がっていない
また太陽活動の指標を見ると「SSN(太陽黒点数):156、SFI(放射エネルギー強度):223」と活発な状態を示す一方、数値が低い方が良好であるとされる地磁気指数は「A(宇宙磁気):118」「K(地球磁気):9」と極めて高く、電離圏が大きく乱れていることがわかる。

太陽活動は活発だが、地磁気の乱れが激しい。「A(宇宙磁気):118」「K(地球磁気):9」という数値はこれまで見た経験がない。当然ながらHF帯は全バンドが「Poor」状態だ
一方でオーロラの観測も世界各地で相次いでいる。一般にオーロラは高緯度のところで発生(観測)しやすいが、今回はイタリア南部、スイス、インド、アフリカ西部などでも観測されているようだ。X(旧Twitter)ではハッシュタグ「#solarstorm」「#aurora」で世界のオーロラ画像を見ることができる。
京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターが公表している地磁気データによると、オーロラ活動を示す指数(AE指数)が2024年5月10日のデータで振り切れているほか、太陽面での大規模爆発で放出された高エネルギー粒子が地球に到達した際に観測される磁気嵐指数が「-400」を突破しているという異常な状態を示している。

オーロラ活動を示す指数(AE指数)が振り切れるという、未だかつて見たことのない数値を表している(京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターの地磁気データから)

磁気嵐指数の較差が急激に大きくなった(京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センターの地磁気データから)
この状態が続けば、今夜からは日本でも北海道を中心に観測される可能性が高い(夕方以降、北方面の空に注意。肉眼では確認できなくてもスマホのカメラで映る場合がある)。
オーロラ研究の専門家である片岡龍峰氏(国立極地研究所准教授)は、自身のX(旧Twitter)で「太陽風の勢いは増しています。磁場は非常に強く南向き50 nT、高速700 km/s、高密度20 /ccと、さらに非常に大きく磁気嵐を発達させる条件が整っています。これから再び磁気嵐が強まります。このような状況が夕方まで続くと1958年2月のように東北地方や新潟でもオーロラが見られるかもしれません」と発信。
さらに11日夕方には「日本全国のみなさんも、ぜひご自宅の近くから念のため、北の空にオーロラが出ていないか確認して頂き、撮影できた・見られた場合には教えて頂けないでしょうか、オーロラ観測の南限が、日本のシチズンサイエンスで決められるかもしれません」とした上で、ハッシュタグ「 #オーロラシチズン 」の使用を呼び掛けている。
その一方で同氏は、「約20年ぶりの猛烈な磁気嵐です。2003年10~11月よりも大きな磁気嵐に発達する恐れがあります。世界各地で停電の恐れなど、様々な宇宙天気災害が心配されるレベルになりつつあります」「磁気嵐が急激に発達しており、オーロラが見事と喜んでばかりもいられない“深刻な”レベルになりつつあります。世界各地の航空関係や電力関係で事故が起こったりしてないことを祈ります」と述べ、厳重な警戒も呼び掛けている。

太陽黒点相対数(SSN=サンスポットナンバー)の推定値。直近では“150”前後で推移しているので、良好なコンディションも期待できるはずだが、実際は非常に厳しい状態が続いている(宇宙天気情報センターのWebサイトから)
●関連リンク:
・大規模太陽フレア発生に関する臨時情報(NICT)
・宇宙天気予報 現況(NICT)
・地磁気の大きな乱れが観測されています(気象庁)
・地磁気データサービス(京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター)
・「太陽フレア」6回発生 通信衛星やGPSなどに影響のおそれ(NHK)
・太陽フレアで大規模通信障害!?現代に与える深刻な影響とは(NHK防災)
・「通信・放送分野における宇宙天気の影響」PDF(NICT作成、総務省「宇宙天気予報の高度化の在り方に関する検討会(第5回)」資料)
・低緯度オーロラ 画像付き観測報告(Yahoo! リアルタイム検索)
・片岡龍峰氏 Xアカウント
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