アマチュア無線機器メーカーの「フラッグシップモデル」(HF/50MHz帯の最高級トランシーバー)に寂しい発表が相次いでいる。アイコム株式会社の「IC-7851」(メーカー希望小売価格:税込1,210,000円)は、一部主要部品の生産が終わり入手困難になったことから生産終了が決定、新規受注は2024年9月末で締め切られる。また株式会社JVCケンウッドの「TS-990シリーズ」(メーカー希望小売価格:税込1,089,000円)はパーツ供給の問題から生産休止が決まり、生産再開時期は未定と告知されている。
◆IC-7851(アイコム)は生産終了
アイコムのIC-7851は「ハムフェア2014」会場で発表された同社50周年記念限定モデル「IC-7850」の量産バージョンとして、2014年末に発売が始まった。受信部はSDRではなくアップコンバージョン方式のスーパーヘテロダイン(1.2kHzの狭帯域ルーフィングフィルタを装備)、純度が高くノイズ極小の局発、送信出力は最大200Wで高周波成分を含まない共振型(正弦波)スイッチング電源の内蔵など、当時のアマチュア無線機としては最高峰の技術で作られ、国内外のOMハムなどに多数愛用されてきた。
2020年12月にヨーロッパで施行された「欧州新安全規格(EN62368-1)」の規格を満たさなくなったことから、同社はIC-7851の一部地域向けバージョン(おもにヨーロッパ向け)の生産を2021年夏で終了したが、その後も日本向けや米国向けのIC-7851は生産販売が継続していた。
2021年7月に掲載した情報↓
【独自】<日本や米国向けなどは今後も継続>アイコム、英国など一部地域向けの「IC-7851」の生産を終了
しかしこのほど、一部の主要製品の生産が終了し入手困難になったことから、すべてのIC-7851の生産終了が決定。新規の受注受付は2024年9月末をもって終了するという案内が9月18日に各販売店に配信された。新規発注が多い場合は9月末を待たず早期に受付を終了するという。
IC-7851が生産終了となることから、現行のアイコム製品(アマチュア無線機)における最上位機種は2024年8月に発表、出荷が始まった「IC-7760」(メーカー希望小売価格:税込877,800円)ということになる。
◆TS-990シリーズ(JVCケンウッド)は生産休止、再開時期未定
JVCケンウッドのTS-990シリーズ(200W機:TS-990S、50W機:TS-990D)はトップクラスのDX’erをメインターゲットターゲットに2013年2月に発売を開始した同社のフラッグシップモデルだ。その系譜は「TRIO(トリオ)」ブランド時代の「TS-900」(1973年)に始まり、「TS-930」(1982年)、「TS-940」(1985年)、「TS-950」(1989年)と4代にわたって進化を続けてきた。
狭帯域フィルターを使い、長時間のワッチでも聞き取りやすく、聞き疲れしないことや、専用DSPによるAGC制御に加え、アナログAGC部も進化させ、さらに混信・ノイズ除去機能も多数搭載することで、世界の無線家たちに語り継がれてきた受信音質「ケンウッドトーン」をさらにブラッシュアップした製品として世界中で愛用されてきた。
しかし近年はパーツの供給難で生産が停滞したほか、2022年2月に価格改定を予告するニュースが流れると、全国のアマチュア無線家からショップを通じて3桁の駆け込み注文が殺到したため、しばらく受注を停止する(その後部品の追加調達などを行って受注を再開)といった困難にも見舞われていた。
そしてこのほど、主要パーツに供給の問題が発生したことから「生産休止」が決定し、公式サイトのTS-990シリーズの製品情報欄に「生産休止中」「生産再開時期は未定です」という表記が追加された。ある販売店では同社の話として「確認したところ、パーツ供給の問題とのこと。生産終了ではなく、生産を再開したいとのことですが、再開時期などは不透明です」とSNSで案内している。
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フラッグシップモデルは主要部品として高価で特殊なパーツを用いることが多いと考えられ、それらの供給が途絶えると代替が難しく「生産休止」や「生産終了」といった苦渋の決断をせざるを得ないのかもしれない。なお両機種とも既存ユーザーへのサービス体制に影響はないとしている。
●関連リンク:
・製品情報 IC-7851(アイコム)
・製品情報 TS-990シリーズ(JVCケンウッド)
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