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<光ファイバーよりも低遅延の「短波帯デジタル通信」で利益を出す>株式の超高速取引に使用する短波無線局、米国で企業グループが免許申請

株式などの金融取引には、コンピュータを利用し多頻度かつ高速に売買注文を行うことで利益を出す「超高速取引」という手法がある。その通信に“光ファイバー回線”よりも低遅延で有利な“HF帯のデジタル通信”を使うという意欲的な取り組みが計画されている。すでに米国ではFCC(連邦通信委員会)が免許申請を受理して審議が進み、パブリックコメントの募集までたどり着いているという。JJ0PPM 須藤氏の寄稿で紹介しよう。

 

 

 

 米国ARRLの週刊ニュースレター(2023年7月13日版)に「新たな方式で企業がHF帯(短波帯)を使うための制度を作るよう求める申請があった」との記事が掲載された。要約すると、①米の複数企業が創設した団体が米連邦通信委員会(FCC)に、株式の超高速取引で利用する目的での周波数の割り当てと、そのための制度を定めることを求める申請書を提出した。②現在FCCがパブリックコメントを募集しているので、ARRLはアマチュア局への影響を検討する、というものだ。

 

米国ARRLの週刊ニュースレター(2023年7月13日版)より

 

 筆者はここ何年か、米の複数企業が超高速取引の実験局を運用していることに注目してきた。これまでは実験であったが、今回の申請でいよいよ実用化・商用化する段階に至ったことを知った。FCCが公表した申請書の要点を手短に紹介する。

 

★用途は超高速取引(High Frequency Trade : HST)
 株式や商品などの相場取引では、多頻度で高速に売買注文を行う手法を「超高速取引」と呼んでいる。「高速」には、①伝送速度が速い、②遅延が少ない(低遅延)の2つの観点がある。今回の申請はHF帯を使うと低遅延な通信が可能という利点を生かすものだ。

 

★周波数帯や出力など
 2~25MHzの複数の周波数帯に最大20kWの出力を希望している。厳密には2~3MHzは中波帯(MF)だが、おおざっぱにHF帯として総称されているようだ。申請書に付属するシミュレーションや実験結果などには、周波数として4.9MHz、5.06MHz、10.2MHz、14.9MHz、19.9MHz、24.8MHzの6波の記載がある。別章には具体的な周波数は示されてないが10波との記載もある。通信は電離層反射を利用し、伝搬条件に合わせて周波数を変えるHF帯の定石通りの方法である。

 

 占有帯域幅は10kHzで実験を行っているが、シミュレーションや周波数帯ごとに割当可能なチャンネル数などの文書から、最大48kHz(チャンネル間隔50kHz)で4,000マイルの距離を安定的につなごうとしているようだ。

 

★無線局の設置場所
 無線局の設置場所の具体的な記載はないが、シミュレーションと実験結果の文書に載っている米国の地名としては、ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、シアトル、ニューヨークがある。いずれも取引所があるなど大都市である。米国外では、サンパウロ(ブラジル)、ロンドン(英国)、韓国、日本が挙げられており、海外展開も計画しているのだろう。

 

★早期に免許と周波数割当が行われるよう配慮
 既存無線局からの異論、国際機関との調整などがあるほど開始時期が延びる。今回の申請者が早期決着を重視して申請書を作成したことがうかがえる、代表的なのは下記だ。

 

・組織内通信に限定:通信サービス事業の展開はしない
・周波数の割当は非独占的:複数の無線局で共有する免許で構わない
・対地通信は国内のみ:他国や国際機関との協議なしに免許可能
・有害な混信を防ぐ対策:技術的対策や運用規則などにより、既存の無線局に有害な混信を与えない。実験局での測定結果や、混信の申し出がなかったことを強調。ちなみに既存の無線局の中にはアマチュア無線も例示されている。

 

 ただしこれらは、素早く“最初の一歩”を踏み出すための申請上のテクニックである。開始後に通信サービス事業や国際通信などが可能になるよう追加の申請をするだろう。“アマチュア局への有害な混信は許容”なんてことにならないように注視していく必要があるだろう。

 

 以上、米国で提出された申請内容を簡単に紹介した。“HF帯は商業的には見捨てられた帯域”なんて言うなかれ、新しい技術で新しい用途が拡がろうとしている。新しい技術開発ができる夢のバンドとしてHF帯が再発展するのを見届けよう。

 

 なお、本件と同じグループによるものか確認はできていないが、日本でもすでにHF帯を利用した超高速取引のための実験局が免許されているとの情報がある。

(寄稿:JJ0PPM 須藤 慎一 氏)

 

 

<hamlife.jpより補足>
 金融取引での活用を狙った短波帯のデジタル通信は、日本でも実用化に向けて実験が進んでいる。すでに複数の実験試験局が免許を受け、千葉県内(房総半島)に設置した固定局から海外の受信局との間で実験を行っているようだ。詳しくはJJ1WTL 本林OMのブログを参照していただきたい。

 

千葉県袖ヶ浦市で撮影した、短波帯デジタル通信 実験試験局のアンテナ。米国シカゴ向けの「JS2RA」(10kW)と、フィリピン向けの「JS2RB」(5kW)が設置されている(写真提供:JJ1WTL 本林氏)

 

 

 

●関連リンク:
・ARRLの週刊ニュースレター 2023年7月13日版(Commercial Interests Petition FCC for High Power Allocation on Shortwave Spectrum)
・FCCが公表している申請記録
・FCCが公表している申請書PDF
・日本で行われているHF帯実験局(JS2RA JS2RB)の情報(JJ1WTL 本林氏のブログ CIC)
・第1回 短波帯デジタル固定局作業班議事概要(案)(情報通信審議会 情報通信技術分科会 陸上無線通信委員会)

 

 

 

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