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【特別寄稿】日本に居ながらにして外国のコールサインを取得! Part3「電子住民申請のため在日本エストニア共和国大使館を訪問、こちらはエストニア『ES1ZB』です」編

アメリカのエクストラ級の資格を持ち、世界6大陸、30か国(地域)からのオンエアー実績があるという鈴木康之 静岡大学大学院工学専攻教授(JR2BEF/JA9OMT)が、日本に居ながらにして外国のコールサインを取得できた!という特別寄稿。Part3は「アイルランド編(EI2KT)」「イギリス編(M0WRJ)」に続き、ちょっとハードルを上げて「エストニア(ES1ZB)」編だ。エストニアは、CEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)加盟国で、シェンゲン協定(ヨーロッパの国家間において国境検査なし、ただし旅行者は圏内に「180日内90日まで」しか滞在できない)を批准している。そのため、長期滞在するためにはビザが必要。どう突破したのだろうか!?

 

 

エストニアで日本人に発給された第一号のコールサインとの噂もある「ES1ZB」のQSLカード。同国首都のタリン旧市街(ユネスコ文化遺産の歴史地区)の風景とコールサインのバックは同国の国旗をイメージして制作

 

 

 

バルト三国の最北「エストニア」

 

 Part1で紹介したアイルランドも、Part2のイギリスも、「ビザなし渡航可能」&「シェンゲン条約未批准」の国でした。日本に居ながらにして外国のコールサインを取得できた!の3回目では、もう少しハードルを上げて、シェンゲン協定批准国のエストニアを紹介します。

 

 エストニアと言えば、最近では同国出身で元大相撲力士の「把瑠都(ばると)」が同国の国会議員になったことで話題ですが、インターネット電話のアプリケーションソフト「SKYPE(スカイプ)」の発祥の地であったりと、“電子立国”として注目されています。

 

 行政手続きの多くがネット上で完結するなど、近未来国家の範としての存在価値を高めているのです。この制度を利用して、EU圏内で起業するときの足掛かりの国として、アントレプレナーやノマドワーカーが活動しています。

 

 私自身、大学での教育研究活動としてこのジャンルをテーマにしていることもあって、アマチュア無線とは無関係に研究最前線基地として首都タリンに、ゼミの連絡事務所(「Con-CEPT」という)を設置しています。今回はその住所を利用して、エストニアの無線免許取得にトライしました。申請には「住民番号」が必要になります。まず、これを「日本に居ながら」取得する必要があります。

 

 

「電子住民(e-residency)制度」とは?

 

 エストニアには「電子住民制度」があります。一言で言えば、「エストニア国民が享受できる電子行政サービスの一部を外国人にもアクセス可能にしている」という制度です。

 

 電子住民のIDを入手すると、物理的にエストニアに存在していなくても、例えば起業のための登記ができたり、銀行口座が作れたり…と、様々な利用が可能となります。もちろん、ビザとは性格が異なるものですし、この制度を利用しても国籍がエストニアになるわけではありません。

 

 また、国際的な取り決めもあり、日本人の場合は納税先がエストニアになるのではなく、日本のままでOK。すなわちマネーロンダリングや節税のために、この制度を使うことはできません。

 

 なぜそのようなことをするのか。それはエストニアという国の歴史を考えると見えてきます。エストニアは、長い期間ソビエト連邦の一部となっていました。現在は再独立を果たしていますが、国の東側にはロシアとの国境線が長く続いています。

 

 そのため、常に隣国との間の脅威、国土に関する哲学が発生します。「何かがあって万が一にも国土が消滅するようなことになっても、全世界に電子住民が存在する限りエストニアはなくならない」との考えが根底にあるのでないでしょうか。

 

 今回プロジェクトの端緒として、この「電子住民」のための「ID(これがコールサイン申請に必要な住民番号になる)」の申請を行いました。

 

 

電子住民の申請はたったの5分で終了

 

 エストニアの電子住民の申請先は「What is e-Residency How to Start an EU Company Online」です。日本語で記した申請の記録や、具体的な申請方法を解説している指南サイトが数多く存在しているため、申請そのものは難しいものではありません。また、エストニア国内の住所を書く欄もありません。

 

 申請項目の中に「エストニアの電子住民になったら何をしたいのか?」について記述欄があり、ここが一番時間がかかると思います。「アマチュア無線のコールサインが欲しい」でも丈夫かどうかは知りませんが。申請料は100ユーロ(約13,000円)、東京で受け取る場合はサービス料が30ユーロ加算されます(2019年4月現在)。クレジットカード決済でOKです。

 

 

 留意する必要があるのは次の点です。

 

① 国境警察の調査がある
 もちろん普通の方だったら何も恐れることはないでしょう。申請後、国境警察から「申請を受理した、調査する。結果はのちほど回答」的なメールが届いたので、チキンな私はビクビクしました。

 

②IDは郵送されず、取りに行く必要がある
 通常、日本から申請を行った場合、東京・渋谷にある「在日本エストニア共和国大使館(または大使館指定の場所)」に出向き、大使館スタッフの面接(英語)を経て、IDカードを受け取る必要があります。

 

③ ID受け取りには1か月ぐらいの時間が必要
 国境警察の審査、IDキットの日本への転送、大使館での受領のプロセスに1か月程度の時間が必要です。今すぐに欲しいといってもそれは無理です。

 

 

電子住民キットの受領のため、在日本エストニア共和国大使館へ

 

 私の場合、申請から35日目に東京の大使館から「IDキットが届いた。面接の日の予約を受け付けるから連絡ください」という趣旨のメールが届きました。仕事で東京に出張する予定を調整し、2018年11月のとある夕方、JR山手線の原宿駅から徒歩10分ほどの大使館に出向きました。

 

 以下、そのときの模様を写真で報告しましょう。

 

 

東京都渋谷区神宮前の住宅地ある在日本エストニア共和国大使館

予約していた時刻ピッタリにインターホンを押す。ドキドキの極致。名前と電子住民キットを受け取りにきた旨を伝えると電子錠が開き招き入れられる。執務室は内階段を上って2階にあった

一通り説明をうかがい、サインや指紋の採取などを経て、電子住民キットを交付してもらう。左はKangro参事官、右は私。私の左手の青い箱にキット一式が入っている。なお「電子住民になって何をやりたいのか?」ということに関して面談で必ず聞かれる。私の場合は「将来エンジニアリング系のコンサルとして欧州で起業したい。タリンの事務所を起点にまずは小さなことから」と回答した

電子住民キットの中身はICチップの入ったカードと、それをUSB経由で読み取るインターフェースだった。電子署名のソフトや@eeアドレスのメールアカウントを用いるメールソフトなど、電子住民として必要なツールにアクセスが可能となる。なお、カードに印字されている情報はネットで広く開示されているもなので秘密情報に該当しない、逆に公開したほうが良いとまでアナウンスされているので、あえてモザイク処理は行わなかった(重要なのはその中に入っている電子情報なのだ)

 

 

 これで私も日本に居ながらにして、念願の「エストニア国の電子住民」になれました。

 

 

そしてESコールサインの申請

 

 大使館で受け取った電子住民のキット一式のアクティベートを済ませ、面談で答えた「まずは小さなことから」なコールサインの申請に入ります。

 

 しかし、“電子国家”を標榜している割には、このキットから「通信局」関係へのアクセスが不可能であることが判明。無線通信は「TTJA(消費者保護と技術的規制局)」という役所が管理しており、そのサイトからダウンロード可能な「アナログ申請(A4判1枚のエストニア語による申請書をメール添付して提出)」ということになっていました。

 

 申請書の中の「ID番号」を書く欄には今回入手した電子住民の番号を投入し、IDキットで電子署名を刻印。HARECな証明書(私の場合はさらにモールスの技能証明)を添えて、それぞれに割り当てられている電子住民メルアドの「@eesti.ee」を使って申請します。

 

 また、免許申請時にはパスポートのスキャンは添付しません。電子市民番号の申請時にこれはすでに提出済みで、電子的にIDに紐付されているからです。

 

 

エストニア語で書かれた申請書をフィルアップした状態(住所など一部をモザイク処理)。エストニア語がわからなくても、私がどこの項目に何を記述したかが理解できれば応用申請可能。2か所ある住所欄の1つを日本の住所にすることを強く推奨する

 

 

直接、電子決済できない申請料

 

 難関は申請料の納付でした。申請料そのものは10ユーロ(約1,300円)と少額ですが、クレジットカード決済やPayPalには未対応。しかも、「エストニア国財務省」指定の銀行口座に振り込みのみでした(その際、無線関係の申請である旨を確実に備考として伝えてもらう必要がある)。

 

 郵便局から送金してもらうのが一番確実です。しかし、1,300円ほどの送金をするのに手数料が4,000円もかかると聞いて驚きました。TTJAからは、「首都タリンにいるならば財務省の窓口でも受け付けるわよ」と助け船を出してきたものの、訪問して支払うと「日本に居ながら…」の今回のコンセプトが崩壊します。

 

 そこで目を付けたのは、国際間電子決済を取り扱う「トランスファーワイズ」という会社のサービスでした。ここでなら、数百円の手数料で送金が可能になるからです。即手続して支払完了! 参考までに、このトランスファーワイズ本社はイギリスにあり、創業者はエストニア出身者だということでした。

 

 

トランスファーワイズのWebサイトによる送金状況。10ユーロ(約1,300円)を送金するのに、総額で1,397円で済んでいることがわかるだろう

 

 

届かないアマチュア無線の免許証

 

 トランスファーワイズ社から、送金完了の連絡がきたのは2018年12月末。クリスマス休暇など重なっていろいろあるだろうから、アマチュア無線の免許証の受け取りは年明けになるだろうと思っていましたが、2019年1月が過ぎて2月中旬になっても、先方からうんともすんとも言ってきません。

 

 メールすら届きません。電子媒体でくる予想でしたが、これは駄目だったかなーと思っていると、タリンの事務所の管理人から「ムッシュ宛て、“本人受け取り限定郵便”の不在連絡票が届いている。今すぐタリンに受け取りに来れるか?」との連絡が入りました。

 

 差出人は「TTJA」とのこと。もうこうなった以上、飛行機に乗って何十万円もかけて、この冬の時期の凍てつく現地に取りに行ってもやむなしですが、ついに「日本に居ながらにして」は無理か、とあきらめムードになりました。

 

 本人限定郵便物を、第三者が受け取ることは実は可能です。それは、IDカードを実際に受け取りに行く人に預けるのです。今回、そのカードも「日本に居ながらにして」となっているため、カードを管理人に郵送すればピンチをしのげるでしょう、でも、途中で紛失するリスクを考えるとそれは嫌だなぁ…です。

 

 結局、エストニア郵便のお客様窓口に「今、日本にいて当該郵便物を受け取れない。日本に回送してもらうとかの方法はないのか」とダメもとで連絡すると、なんと「それはできない。では差出人に差し戻すね」と最後通牒のような連絡がきて目の前が真っ暗になりました。

 

 

実はご当局も困惑していた!?

 

「免許証はできている。郵便でタリン市内をうろうろしている。でも取りに行けない」な葛藤のなか、私は最後の望みのメールを現地の「TTJA」に送りました。「この冬の間は日本にいる。申し訳ありませんが、そのようなわけで郵便物が差し戻されるので、日本に回送するか暖かくなるまでそちらで保管しておいていただけないか。追加費用はすぐに送ります」という趣旨で…。

 

 すると即返事がありました。「あなたを探していたのですよ。連絡先が設置場所とメールアドレスだけでどこに免許証を送って良いかわからなかった。だから、確実に本人に届くだろう受取人限定で設置場所に発送してみたんだ」「電子メールしなかったこちらも悪いが、日本に送って欲しかったんなら申請書のどこかに書いといてくれればよかったのに」「では免許の郵便物が差し戻されたら再送するから日本の住所を教えてほしい。追加費用は要らないよ」という内容です。

 

 まさに神のお告げのような文面を見て喜びました。さらにそのメールには続きがあって、「待ち遠しいと思うので、こちらから再発送する前に免許証をスキャンしてメールするね!コールサインはそのときまでのお楽しみで!」と。涙が出てきました。

 

 

まずはスキャンされメールで届いた「ES1ZB」の免許証(表面、住所の一部は加工)。「クラスA(モールス技能あり)」の表示が確認できる

免許証裏面(発行者の氏名と署名の部分は加工)。エストニア語、英語、フランス語、ドイツ語の4か国語表記。大きさ的にイギリスの免許証よりはるかにサイズが小さい。記載内容はイギリスと同様にCEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)加盟国で必要とされる要件が満たされている

 

 

 免許証表面に電子住民ID番号が示されていることから、この重要性がわかります。本国の方のそれと同じ重みをもっているのでしょう。

 

 また、免許証裏面の情報から、2019年1月中旬には許可が下りていたこと、有効期間が規定最大の5年間であることがわかりました。エストニアでは「申請受理から14日以内に採否を決定する」という規定ありますから、年末に申請料が届いたあと、まさにルール通り粛々と処理されていたことがうかがえます。

 

 

電子国家から郵送で紙版の免許証が到着!

 

 2週間後、職場宛てに「TALLINN EESTI POST」と刻印されているクッション封筒が届きました。封筒見た瞬間に中身がわかるという代物です。開封すると、パウチされている免許証が確認できました。パスポートよりほんの小さいサイズで、持ち運びにも便利そうです。

 

 

郵送されてきた「ES1ZB」の免許証。まさか電子国家から国際郵便で届くとは…と感慨深い

パスポートと免許証の大きさの比較。ラミネート加工されており耐久性に優れている

 

 

 郵便物が届いた日の夕方(現地は朝)、受け取った旨のメールを「TTJA」に送りました。その際に、以下の疑問点を質問しました。

 

① 今回、コールサインのサフィック「ZB」が割り当てられたことは問題ありませんが、これは「AA」から始まるシーケンシャルなサフィックスだという認識で良いですか。すなわち残りは「ZC」から「ZZ」までなのでしょうか?

 

②全部発給されたら、そのあとはどうなるのでしょうか?

 

③日本国発行の「HAREC(統一アマチュア無線試験証明」による申請は今回が初めてでしょうか?

 

 

 これによる回答(概要)は以下の通りでした。

 

①モールス(CW)技能証明証を持っている人にはAクラス免許で2文字サフィックス。そうでない人にはBクラス免許の3文字サフィックスを指定している。基本的にはシーケンシャルに出すが、2文字サフィックスはソビエト連邦時代に相当埋まってしまい、シーケンシャルには出せないのが現状である。よって、エストニア無線連盟の担当者と相談しながら未使用の部分からランダムにコールサインを割り当てている。

 

②Aクラスで切迫しているのは1エリア(首都タリン地区)だけ。2文字サフィックスが、今後増えることはあまり考えていない。モールス(CW)はもう流行らないでしょ。万一枯渇した場合は、閉局した分を再割り当てると思う。3文字サフィックスは十分余裕があるから大丈夫。

 

③具体的に統計から参照していないが、日本が「CEPT-HAREC」に参加したのは数年前のこと。少なくとも我が国の担当者は、以前から私だから、私の記憶では貴方が最初の日本人だと思うよ。

 

 

 アイルランドもイギリスでも、現地のコールサインを取得してアマチュア無線を運用した日本人の先達はたくさんいらっしゃったと思いますが、エストニアではおそらく第一号とのことだったので嬉しい気分でした。

 

 後日談ですが、エストニアのアマチュア無線連盟「EARU」に入会を希望したところ、「日本人第一号の会員として歓迎する」との返事をもらいました(もちろん会費の振り込みは「トランスファーワイズ」の利用です)。

 

 私の目下の夢は、エストニア国内に遠隔操作できる無線局を設置し、世界各地の「電子住民なハム」が、仮に物理的にエストニアの外に居ても、自由に共有財産としてその設備を使用できるようにすることです。

 

 身の丈に比べてハードルはかなり高いと思いますが、「先端電子国家の電子住民としてのハム活動」としてそんなことができればと模索中です。

 

 

 

 次回のPart4は東地中海上に位置するキプロス編の“日本に居ながらにして外国のコールサインを取得”を紹介します。

 

 

 

●鈴木康之氏(JR2BEF/JA9OMT)プロフィール

 

1973年 JA9OMTおよびJR2BEF開局
1988年 アメリカでノビス級「KC6BKZ」開局。そのあと「KH2EC」「AH2CH」
1991年 アメリカでエクストラ級を取得「WR1J」
1991年 浜松ノビスクラブ「7J2YAA」を主宰
1993年 ブラジルで「PS7ZWR」開局
1995年 オーストラリアで「VK2WJR」開局
1998年 イギリスで「M1DVF」開局
1999年 エジプトで「SU0ERA/WR1J」開局、自前のWAC完成!
2005年 浜松ノビスクラブのアメリカ版FB.net「KA1AA」を立ち上げ
2018年 浜松ノビスクラブ再始動。「EI2KT」「M0WRJ」「ES1ZB」を開局
2019年 キプロスで「5B4AOH」を開局

 

 

 

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【特別寄稿】日本に居ながらにして外国のコールサインを取得! Part2「一度に7種類&原則終身免許、こちらはイギリス『M0WRJ』です」編

 

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●関連リンク:
・海外でアマチュア無線を楽しもう!!(JARL Web)
・アマチュア無線の国際運用(ウィキペディア)
・勧告 T/R 61-02 統一アマチュア無線試験証明書(CIC:JJ1WTL 本林氏のブログ)
・鈴木康之-研究者(researchmap)
・鈴木研究室(静岡大学)

 

 

 

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